洪水のリスク評価と対策
今回は、洪水のリスクについて述べます。
洪水のリスクの考え方は、戦後、米国から、入ってきました。それまでは、過去の最大(既往最大)を基準にしていました。リスク評価をするには、数十年分のデータが必要なので、海岸堤防の設計のようにデータの少ない場合には、現在でも既往最大を使っていることもあります。
いま、仮に、200年分の毎年の洪水データがあったとします。これを大きさの順番に並べかえて、ちょうど真ん中あたりが、100年に1回の大きさの洪水になりますので、これに耐えられる堤防を作れば、100年に1回程度の洪水に耐えられるようになったと考えます。
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時間方向の展開
次に、簡単にするために、ある都市が洪水になる利率は1%、洪水にならない確率は99%であるとします。そうすると、100年間に1一度も洪水にならない確率は0.99の100乗になります。これは、0.366です。つまり、100年間一度も洪水が起こらない確率は36%ですから、100年経ってみたら、洪水が起こっていた確率が6割=2/3(1-0.366)はあります。
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空間方向への展開
流域を10x10の100個のマスに分けて考えます。あなたの住んでいる町の雨の降るエリアが将棋盤のように10x10のマスになっているとイメージします。1つのマスについて、100年に1度程度の洪水対策をしたと仮定します。次に、この100個のマスの降雨の降り方がバラバラ(独立)であるとします。そうすると、100個のマスでどこも洪水にならない確率は0.99の100乗になります。つまり、時間方向と同様に、2/3の確率でどこかに洪水が起こっていることになります。実際には、マスで切った区間の降雨の降り方は独立ではありません。降雨をひき起こす雲が西から東に移動する場合には、明らかに、東西方向に従属性が生じます。しかし、今回の九州で洪水被害を起こしたような集中豪雨は、狭い場所に集中的に降るタイプで、空間分布の独立性が高いです。ですから、空間的に独立して降雨がある場合のリスクを考える必要があります。
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空間解像度と時間解像度
上記の例では、時間は年を空間は10x10を考えました。実際のリスクは、この2つの積になります。また、独立性の仮定が適用できれば、分解能を高くするとリスクがあがってしまいます。ですから、従来法で考えると、適切な時間解像度、空間解像度、独立性の値が必要になります。この辺りは、あまり検討されていません。
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簡単な方法をやめる
現在の洪水対策手法の基本は、1940年代に米国で開発されたものが、輸入され、日本に合わせて調整されたものです。米国は、プラグマティズムの伝統が強いので、理論的な根拠が弱くとも、実際に使って有効であった(プラグマテイズムの真理の判断基準です)場合には、それが生き残ります。なので、米国では、現在でも、基本的に、同じ方法が使われています。
しかし、1940年代はコンピュータがなかったので、手計算でできることが手法の条件でした。現在であれば、過去100年分の降雨を使って、問題がないかを計算することは容易です。ただし、降雨分布は、レーダー雨量計ができる前には点データしかありませんでの、面データを推定して作る必要があります。
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洪水対策の考え方の変更
球磨川の洪水対策については、川辺ダムの問題が取り上げられていました。しかし、これはダムに限りませんが、道路でも、新規の土木工事で、復興をしたり、防災対策をすることは、人口の減少と財政の限界の問題があるので、無理だと思われます。新規の建設どころか、既に建設した施設の維持管理すらままならない状況になりつつあります。今までは、人が住んでいれば、災害が起こったときに問題がないように、防災対策を公共事業で行ってきました。しかし、これからは、過疎で人が住まないエリアが増えます。ですので、防災対策の基本はダムなどのハードではなく、土地利用規制になります。これは、欧米で当たり前のことで、フラッドプレイン指定したエリアの住宅については、被災しても自己責任になります。災害は、必ず起こるので、これは起こるものとして危険なエリアには人が住まないことが防災対策の基本になります。