LUT3Dの効果
LUT3D(または3D_LUT、以下LUTと略す)と呼ばれるモジュールはRGB色空間を変換します。トーンカーブが、RGBの各バンドの中での変換を行うのに対して、LUTは、RGBバンド間を跨いだ変換を可能にします。8ビットのRGB色空間の1点を別の点に変換する場合の組み合わせは、(256x256x256)の2乗になり大きな値になりますので、そのままでは大きすぎてつかえません。ですから、変換テーブルには、いくつかの代表点を記載し、実際に変換する時には、その間を補間します。この点では、変換テーブルの情報量の与え方、補間の方法で、本来は同じLUTテーブルから異なった変換テーブルデータが得られる問題点を抱えています。また、(これはLUTに限ったことではないのですが、)RGBの各バンドに記録される値は、仮にセンサーが同じでも、センサーの前につけられるフィルターの光学特性によって変化します。これは、いわゆるカメラメーカーによる色乗りの違いになります。LUTはRGB間をまたいで変換できるので、「カメラメーカーによる色乗りの違い」を乗り越える可能性を秘めています。つまり、図式で書けば次のようになります。
各社の色乗りデータをもったRGBデーター>標準化LUT変換ー>標準化RGBデータ
標準化RGBデーター>色乗りLUT変換ー>色乗りRGBデータ
簡単に言えば、キャノンの色乗りを標準化LUT変換で一度、ニュートラルなRGB(標準化RGB)に変換します。
次に、標準化RGBをニコンの色乗りといったような色乗りLUT変換で変換します。こうすれば、キャノンのカメラで撮影した画像を、ニコンの色乗りで表現することが可能です。
トーンカーブ変換は、RGBの各チャンネルの中の変換ですから、センサーの前についているRGBフィルターの違いを乗り越えることはできません。あくまで、RGBチャンネル内のバランスを変更するだけに留まります。
ところで、現実には今の時点では、「標準化LUT変換」は提供されていません。LUTモジュールは次の変換をしています。
各社の色乗りデータをもったRGBデーター>色乗りLUT変換ー>色乗りRGBデータ
この方法では、「センサーの前についているRGBフィルターの違い」が残っています。
例えば、以下の例では、darktableについているHaldCLUT(Rawtherapieのコピー)を使っています。ベルビアの100風の色合いのデータです。このLUTの効き方は、元の「センサーの前についているRGBフィルターの違い」を引きずっています。(注1)
何を言いたいかというと、今回はLUTの説明ですが、以下に示すLUTの例を、読者の方が、実際に試してみても同じようになる保証がないということです。ここでは、オリンパスのRAWを使っていますので、他のメーカーのカメラでは、同じLUTデータを使っても、異なった結果になってしまいます。これは、現時点では、全てのLUTに共通する問題と考えています。
ベルビア100を試す
前書きが長くなりましたが、本題に入ります。今回は、ベルビア100を使った例を示します。
LUTファイルはHaldCLUTを使います。ファイルはHaldCLUT/Color/Fuji/Verivia100にあります。
以下の写真では左がLUTを使わない画像、右がLUTを使った画像になります。
写真1では大賀ハスの写真にベルビア100のLUTを使用した例です。ベルビア100を使うと、色合いが濃くなりますが露光が不足します。
写真2では、露光モジュールと、トーンイコライザーモジュールで、露光を調整しています。
右の画像の彩度が実際より高すぎることがわかります。しかし、写真2の右と左を比べれば、例えば、ポスターに使った場合に、圧倒的に目を引くのは右で、左は霞んでしまいます。
写真3は比較のために、スタイルファイルのベルビア100を適用しています。左が元の画像、右がスタイルファイルを使った画像です。スタイルファイルの中身には、トーンカーブ以外の処理が含まれていることもありますが、ベルビア100の場合は、トーンカーブだけです。LUTと比べると変化の幅が小さくなります。
写真4はメリナ・メルクーリ賞の碑です。写真3の右の画像では、ベルビアのLUTを適用した後で、露光を調整してあります。芝生の彩度が不自然に高いです。
写真5では、ベルビアを適用し、露光を調整した後で、カラーバランスモジュールで出力の彩度を落としました。
写真6は比較のために、スタイルファイルのベルビア100を適用しています。左が元の画像、右がスタイルファイルを使った画像です。LUTと比べると変化の幅が小さく、ここではあまり差が見えません。
まとめ
ベルビアは色乗りの強いフィルムです。LUTのベルビア100はこれを参考にして作られた変換データです。LUTは、トーンカーブ変換(スタイルファイル)よりは自由度が大きいです。LUTはインパクトのある写真を作る上では、必須のツールと思います。ただし、現時点では、LUTデータは動画を中心に動いていて、静止画のLUTデータは少ない傾向にあります。
現在、写真の90%以上が紙ではなく。WEBで見られています。おそらく、WEBの90%以上がスマホで見られていると思われます。ですから、写真の最大のマーケットは、スマホで見てきれいな写真になります。スマホで見て、行ってみたい、食べてみたい、身に着けてみたいと思わせるような写真を提供することが、良い写真を作ることになります。また、インスタグラムは正方形ですが、スマホで見るのであれば、正方形が縦長の写真の方が全体が見やすくなります。(注2:)
スマホで見る場合には、色の効果は絶大です。もちろん、液晶の性能によって、表示できる色には限界があり、誰もが同じ絵を見ているわけではありませんが、そのばらつきは、紙に印刷する場合のばらつきに比べれば、はるかに小さいと思います。スマホの画面の解像度はあまり高くないので、色の効果は絶大です。LUTは標準化されていないという致命的な問題点を抱えていますが、写真のマーケットを考えるのであれば、解像度をあげるよりも、LUTの活用に重点を置くべきです。
注1:
ディスプレイの色乗り、レンズの色乗りの違いもありますが、「センサーの前についているRGBフィルターの違い」よりは小さいと考えています。その理由は、写真を見た場合に、カメラメーカーがわかる場合が多いことによります。ただし、これは、Jpegの場合に限られると思われます。RawでLUTを使えば、理論的には、「センサーの前についているRGBフィルターの違い」は消すことが可能です。ここでは、静止画で説明していますが、標準化の問題は、動画でもあるはずです。全般に色の標準化の問題は、おざなりにされていると思われます。
注2:
スマホの次がタブレットですが、縦横比はAまたは、B版になります。6つ切りで展示するくらいなら、タブレットで展示した方がよいと思いますが、タブレットを使った写真展示は少ないです。また、タブレットやスマホを前提とした写真は、基本が組写真になると思われますが、組写真の取り方の検討例も少ないです。オリンパスの米谷氏がライカを意識して小型カメラを作って時の製品コンセプトが、小型で持ち運びに便利にするとによって、ライカでは大きすぎて持ち運べず撮れなかったチャンスの写真が撮れることを目指していました。同じように、せっかく、撮影しても、誰からも見られない写真は、ないと等しくなります。誰もが、簡単に見れる写真が重要なコンセプトだと思います。