ダムと洪水のデータサイエンス(環境)(1)

西日本と中国大陸で洪水が問題になっています。特に、ダムと洪水の関係が議論されているので、ここでは、普段あまり言及されていないが重要な点を論じておきます。論点は、環境と洪水リスクの2点です。今回は、前半の環境を取り上げます。

ダムと環境

河川環境を調査することは、、データサイエンスで言えば、サンプリングです。データサイエンスとは、サンプルから、母集団の特性を推定する手順になります。母集団が100個のデータからなり、100個のデータをサンプルできれば、「サンプルの特性値=母集団の特性値」になるので、とくに、工夫は不要です。ここまでいかなくとも、サンプルの数が非常に多いビッグデータなどでは、サンプルの特性値と母集団の特性値に差を付けないこともあります。しかし、「サンプル数<<母集団の要素数」の時には工夫が必要になります。

さて、以上の教科書に書かれている議論は、サンプルの単位が明確な場合です。たとえば、選挙の調査では、母集団は、その選挙区の全有権者になります。1要素は1有権者です。それでは河川環境調査を行うとの1サンプルの要素は何かご存じでしょうか?。これが決まらないと、サンプル調査が成立しません。

河川環境調査を行うときの1サンプルの要素は河川リーチ(reach)です。reachには定訳がないですが、筆者は、reachを「河川リーチ」と訳しています。これは、瀬と淵が複数個含まれる河川の区間(reach)です。この中には、大きな環境変化がなく、河川環境がほぼ一様とみなされることが前提です。「河川リーチ」のポイントは、瀬と淵が含まれていることです。川には、浅くて流れが速い瀬と深くて流れが遅い淵があり、河川生態系の生き物はこの2つを使い分けて生息しています。ですから、この2つはセットで考えなければなりません。

ダムをつくると、河川リーチが破壊されますので、その結果、環境評価は出来なくなります。これは、環境が良くなる悪くなる以前の問題です。

比喩で例をあげてみます。

河川リーチは瀬と淵からなります。虫の頭部を瀬、後部を淵と考えれば、普通の河川には、瀬と淵が交互にありますので虫が並んでいるようなイメージです。河川という溝にダンゴムシが並んでいるような状態です。この中から、数匹のダンゴムシをサンプリングして、全部のダンゴムシの健康状態を推定することが、河川環境調査に相当します。

そこにダムを建設すると、ダムの下流が瀬に近い浅い部分になります。ダムの上流は貯水しているので淵に相当します。同じように。虫の頭部を瀬、後部を淵と考えれば、数匹のダンゴムシが一匹の大きなムカデに置き換わった状態です。ダンゴムシとムカデの健康状態を比較することはできません。ですから、データサイエンスのサンプル理論からすれば、ダムを建設したあとの前後の環境は比較できませんとしか答えられません。

これは、魚道を付けても変化しません。

ダムは、状況によっては必要な施設です。そのことは否定しません。しかし、魚道等の補償対策をすれば、環境に影響を与えないと考えることは、データサイエンスからいってありえません。ダムは優秀な養魚場になりうるので、それは流水より利用価値が高いかもしれません。また、自然に出来たダムや湖もあります。低湿地が多く、標高の高いところは少ないですが、自然の環境に背と淵のない貯水域が存在します。だからといって、バランスを崩してまで、ダムをつくりすぎると、流水の河川生態系のバランスが失われてしまいます。

三峡ダムでは、水質問題や環境問題も多発していました。閉鎖性水域の水質問題は、日本国内でも多数あります。原因は、生活用水や農薬からの過剰付加と考えられている場合が多いと思います。しかし、ダムは流水生態系を破壊しますので、流水生態系による浄化システムはなくなってしまいます。筆者は、こうした影響も大きいと考えています。