データサイエンティストが見る駅前シャッター通りがなくならない訳

駅前シャッター通り問題

つくばセンタービル(1)~つくば市とその周辺の風景写真案内(108)」で、つくばセンタービルがシャッター通りになっていることを紹介しました。

駅前シャッター通り問題は、大学の計画系の講義では触れられることの多い問題ですが、解決方法はありません。一時期、青森市の駅前再開発が成功事例とみなされたときもあります。しかし、結局、中核施設の駅前のショッピングモールビルのアウガが赤字で、自治体が毎年赤字補填を続けたものの、民間が撤退し、現在は、アウガには青森市役所が入っています。隣の土浦市も市役所が民間が撤退した駅前ビルに引っ越しています。つくば市の場合、旧6町村が合併したため、市役所は、ながいこと中心に近い旧谷田部町庁舎に間借りしていました。最近、研究学園駅近くに新たに市役所を立てたばかりなので、駅前ビルへの市役所の移転はできません。その結果、駅前ビルに相当する旧西武百貨店は空き家になっています。

こんなにどこでも問題になっていて、解決策がわからないのも不思議とも思われますが、データサイエンスから見れば、「まともに解決策に取り組んでいないからである」と言えると思います。

次に、その理由を説明します。

そのポイントは

問題点(結果)

解決法(原因の改善)

のフレームで考えることができます。つまり、因果モデルが求まっているかにつきます。

 

理由1:因果に必要な条件が満たされていない

データサイエンスは、出来れば、因果モデルを目指します。

ただし、最初から因果を目指すのは、ハードルが高いので、グレードがあります。

  • グレードの取り方については、大まかな考え方は、データサイエンスの分野で、共通していますが、詳細な点では異なります。体系化が一番進んだのは疫学と思われますが、用語が特化して、他の分野ではそのままでは使いにくいです。以下では、疫学を参考に大まかに説明します。グレードは大きい程、因果の信頼性が増します。

  • グレード1ー観察研究:対象を観察して、問題点の抽出、因果の仮説を立てます。

  • グレード2-比較研究:時間軸上、類似対象または類似空間での比較をします。

  • グレード3-比較研究と相関:相関は因果ではありませんが、相関がなければ、因果は否定されますので、分析はすべきです。また、因果に持ちこむには、費用と時間がかかりますので、因果が間違っているリスクを承知の上で、相関に基づいた判断が行われることもあります。これは、会社の経営戦略、景気対策のように、意思決定が頻繁に更新される場合に、多く見られます。ただし、この方法では会社の経営が傾くことも多々あるので、それなりのエラーが含まれています(注1)。

  • グレード4-比較研究と因果:比較を因果に持ちこむために、必要な条件は、ルービンとパールによって整理されています。この条件を満たすように比較します。

  • グレード5-ランダム化試験(RCT)

どうして、こんなに面倒なことをするかというと、ポイントは以下です。

今までは、AとBに相関があって、明らかにAがBより時間的に前である等、AとBのどちらがより原因に近いかが判断できる場合には、Aが原因で、Bが結果であるという整理がなされてきました。ここでは、Bが駅前商店の撤退のような問題点です。しかし、AとBの相関だけでは、他のCが原因でBが結果になる可能性が排除できません。排除するには、グレード5かグレード4が必要です。グレード1から3は、因果が正しいかわからないレベルですが、必要な準備段階としての意義が認められています。つまり、あまり喜ばれませんが、論文は受理され、業績にはなります。

なお、アンケート、ヒアリングは、バイアスが大きすぎて、単独では無効です。グレード1、グレード2とセットで使う必要があります。

おそらく、多くの駅前再開発や、地方再生レポートは、グレードが低すぎると思われます。詳しくは、理由3で述べます。

理由2:レポート販売業

ジム・ロジャースが、「コンサルタントが作った開発途上国の開発プランは実現したことがない。コンサルタントはレポートを売って利益を出しているため、プランが実現しなくとも、収益に影響はないからだ。」という趣旨のは発言をしています。過疎化や駅前再開発のコンサルタンとレポートにも同じ構造があります。コンサルタントは、レポートが売れれば、活性化の有無に関係なく、それで、終わりです。発注者側の公務員も、専門家に依頼したので、自分で考えるよりましな提案があるはずだといって、コンサルタンとに投げておけば、責任を取る必要はありません。(注2)レポートを作成したコンサルタンとの社員も、発注者側の公務員も過疎化が止まらないからといって、給与が減額されるわけではありません。しかも、20年来取り組んでいて、成果がでないにも関わらず、政府は地方再生に予算を付けますから、レポート作成には、多額の補助金が出るので、地方自治体の負担もわずかです。

というわけで、以前、委員会をつくると問題が解決しなくなると申しあげましたが、ここには、同じような構造があります。

 

理由3:レポートのグレード(理由1の適用法)

駅前シャッター通り対策の素朴な問題解決方法は、次のようなものでしょう。

  1. 駅前がシャッター通りになっている事例を集める。

  2. 駅前がシャッター通りにならず、活発な事例を集める。

  3. 両社を比較して、共通点と相違点をまとめる。

  4. 相違点から、活性化の原因になりそうな要因を抽出する。

いわゆる帰納法と呼ばれる手法です。帰納法はクレード2の方法でもあります。

グレード1から5をみても、訳の分からない人も多いと思われます。

わかりやすさを優先して、端的にいえば、次にのようになります。

現在のデータサイエンスでは、因果を検証する研究手法としては、観察研究と比較研究による帰納法を否定しています。観察研究による帰納法は、仮説を立てるときに有効ですが、仮説の因果関係の正しさとは無関係です。(注3)

つまり、グレード1とグレード2だけでは、原因がわからないので、問題解決はできないのです。

なお、コンサルタントのレポートは、グレード1または、グレード2で帰納で問題分析を行い、解決策のモデル図(ゾーニングの図やイメージ図が普通です)を作成して、それらを、ワークショップなどで住民に見せて、住民の意見を反映させて修正することが多いです。しかし、問題点と解決策の間には、因果関係はなく、解決策と言っているものはよくて思いつき、普通は他の地区のレポートに使った解決策素材をアレンジしたものです。

さて、理由1を長々と申し上げたのは、グレード2の帰納的アプローチでは、問題解決できないからです。

この問題点は、駅前再開発だけでなく、非常に広く見られますが、今回はこれにとどめておきます。

 

注1:このブログで扱っている写真のデジカメ業界は売り上げが萎んで、経営戦略が混乱の極みになっています。日本の白物家電は消滅しましたが、そのあとを追っています。収益に関する因果モデルがなかったことは確かです。デジカメ業界を見ていると相関モデルすら、あまり、取られていないと思います。ただし、データサイエンスの手法は、既に、あるものにしか、有効になりません。全く新しい新製品は、評価できません。

注2:この点で、あるいは、この点だけで、コンサルタントは非常に役にたっているのかもしれません。筆者は、成果が上がらないコンサルタントへのレポート作成依頼がなくならない他の理由が思い当たりません。

注3:組み合わせとしては、比較研究による帰納法によって仮説を立てることもあり得ます。ただし、比較研究のデータを取るときに、重要な点がデータにもれてしまうと、比較は機能しません。一方、観察研究では、何をデータとして取るかが、研究のポイントになります。このため、仮説を立てるヒントとしては、比較研究より注意深く行われた観察研究を好む研究者が多いと思われます。データの量より、質を重視すべきという考え方です。