アメリカと中国が似てきた理由(1)~コロナウィルスのデータサイエンス(69)

香港と米国で起こっていること

香港と米国で、デモや暴動が起こっています。社会体制の異なる国で、ほぼ同時に、治安が悪化することは、一見すると非常にまれな偶然のようにみえるかもしれません。しかし、筆者は、この2つの現象は同じルーツから発生していると考えています。

そこで、今回は、どうして「アメリカと中国が似てきた」かを考えます。

なお、この話題は、データサイエンスとも関連が深いのですが、その点も追って言及します。

マルクスは「下部構造が上部構造を支配する」といいました。マルクスのいっていることには外れも多いのですが、「アイデアが豊富」で「キャッチコピーをつくるのが上手」です。孔子の言葉であれば、「衣食足りて、礼節を知る」が相当するのですが、キャッチコピーとしては、マルクス先生の方が、インパクトがあります。

図1は、経済の状態を、高成長社会と低成長社会に分けて考えた図です。2分割法には問題が多いので、より細かな分類も追って考えますが、出発点としては、大まかに低成長社会と高成長社会に分けて考えます。

この表記ですと、日本の行動成期は、低成長社会から、高成長社会へのStage Upの時期と考えれらますし、失われた30年は、高成長社会から低成長社会へのStage Downの過程と考えることができます。この表記は、あくまで成長率(偏差、微分)が問題であって、その時の一人当たりGDPのような豊かさとは無縁です。

さて、多くの国では、Stage Upに苦慮していますので、最大の論点は、Stage Upの条件になってしまうのですが、今回は、右のStage Downに注目します。

経済成長の低下がもたらすもの

経済成長率が低下する次のようなことが起こります。

なお、今回のコロナウィルス問題はStage Downを加速してしまったので、これは、コロナウィルスの経済問題にもつながります。現在、日本で起こっている問題を思い浮かべていただくと理解しやすいと思います。

  • 失業率が上がります。日本の大手企業では、社内失業を抱えるので、外国程は失業が表面化しにくいのですが、中所企業、非正規の失業が拡大しています。米国ではすでに、失業率が増加し、暴動の原因の1つといわれています。中国でも、暴動は多数起きているといわれています。

  • 利子率が低くなります。経済成長が見込めず、消費が減少してしまうと、お金が回らなくなり、利子率が低くなります。日本では、日銀がマイナス金利を採用しています。

  • ねずみ講経済が広まります。国債を発行して、税収の裏付けのないお金を無理に回すことは、ねずみ講で、どこかで破綻します。いままで、日本以外の国は、この政策をとっていなかったのですが、コロナウィルス対策で、戦時経済に移行した国が増えました。

  • イデオロギーと政治が強くなります。中国では、共産党の支配を強め、香港を実質支配下におく政策が強硬されました。今まで、中国では、経済成長率が国内支配の重要なキーでした。これは、経済成長が期待出来れば、反対派は活動できないので、ゆるい共産党支配でも破綻しないで統治できるという理論です。今年は、コロナウィルスの問題で、経済成長率の目標値自体が公表されませんでした。つまり、経済成長で反対派を封じ込めるシナリオは破綻しています。ですので、力(軍事力)で香港を抑える政策に転換してきました。なお、なぜ、香港なのかは次回以降に考察します。米国は、一部のIT系企業を除いて、経済成長が見込めなくなりました。そのIT系企業も、コロナウィルスの前のソフトバンク・ファンドの投資を見れば、分かるように一時期の勢いがなくなっています。経済成長が見込めなくなると、選挙民に経済成長の分け前を期待させることができなくなります。この場合に、古くから知られている手法は、外交で、外国を悪者にして、選挙民のストレスを発散する方法です。その他に、最近では、メディアを使った洗脳手法も使われています。これは、ポストトゥルースと呼ばれようになって、広く知られるようになりました。これは、事実を都合の良いようにゆがめて、選挙で勝利する手法です。トランプ大統領はこの手法も名手で、選挙戦でも、当選してからも、この手法を多用しています。米国では、思想信仰の自由があるので、一見すると共産党支配のような事実を曲げたイデオロギーは広まらないと思われるのですが、実態は、ポストトゥルースが多用され、事実をゆがめるという点で共産党イデオロギーに相当する効果を発揮しています。

  • このように経済成長による分け前を国民に与えることができなくなると、それに代わるポストトゥルースなどのイリュージョン手法が使われます。共産主義もイリュージョン手法の一つです。この場合には、エビデンスはイリュージョン手法を破壊してしまいますので、無視されるか、破壊されます。データサイエンスに基づくエビデンスは、政権にとって不利と判断されれば、ポストトゥルースで無効化する対象になります。昔は、焚書をしてのですが、現在は、焚書をしなくとも、ポストトゥルースをウィルスのように蔓延させれば、エビデンスの息の根を止められることがわかっているので、こちらの目だなない手法が用いられます。中国では、伝統的な焚書坑儒を未だに使っていますが、伝統を重んじているのか、サイバー攻撃の内容が知られていないのかのどちらかでしょう。米国のトランプ大統領ツィッターは、既に、せめぎあいのレベルに達しています。ポストトゥルースがトゥルースを追放してしまうことは、書店に並ぶ健康法の本では既に起こってしまったことです。健康法の本の90%にはエビデンスがなく、健康法には効果はありません。しかし、出版社と書店は、本が売れないと食べていけないので、本の内容が正しいかではなく、売れるか否かで出版と販売の促進を判断しています。その結果、エビデンスのある本は追放されてしまいました。健康法については、疫学のエビデンスの基準がそのまま使えるので、エビデンスの有無の判断は比較的容易です。しかし、判断が難しいだけで、他の分野でも似たような状況も多いと思われます。

 

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図1 経済ステージの変化

 

第1回のまとめ

米国と香港での暴動は、Stage Downに対する政権の対応と住民の反応ということでは、同じルーツを持っています。そうであれば、今後もこの2つ国で同じような社会現象が起こる可能性があります。

イデオロギーは、Stage Downの世界では、イリュージョン手法です。こう考えると、共産主義マルクスが予言したように、Stage Upでは現れずに、Stage Downで現れるのは、自明と思われます。

しかし、中国の問題は香港だけで、中国本土では起きていないから、別の問題ではないかと思われるかもしれません。次回は、この点について、考えてみます。