岩手県に感染者がいない理由~コロナウィルスのデータサイエンス(69)

岩手県は例外か

岩手県はまだ、感染者数がゼロのようです。これは、県外から、感染者が流入していないためです。

岩手県のように、ある国で、コロナ感染者が発生しているが、ある県、または、州で感染者がは発生していない例はあるかという問いをもって、ジョンホプキンス大学のコロナマップを見てみました。

フランスなどいくつかの国では、それ以下の行政界のデータが入手しにくいようで、マップでは、わかりません。一方、米国、英国、オランダなどでは州レベルのデータがマップにのっています。

結論としては、感染者の分布に濃淡があるので、少ないところがあるのは確かですが、それが、ある州がゼロになっているのかは不明でした。

ただし、米国を見ても、山がないので、感染者は、広く散らばっています。

そこで、地形に注目してみます。

日本の国土面積は37万km2あって、狭いため農業生産に不利であるといわれますが、フランスの55万km2には及びませんが、ドイツの36万km2、イギリスの24万km2よりは大きく、国土面積そのもが極端に小さい訳ではありません。しかし、国土の70~80%は山地であるといわれています。その結果、平地は、河川の沖積平野に限られます。標高200m以下の平地部に人口のほとんどが集積しています。標高200m以上の平地も長野県などにありますが、ごく一部です。この総面積の20%以下の平地部は住宅地であり、産業用地であり、農地です。

図1は河川の勾配で、日本の河川が急峻で、平地が少くなる原因がわかります。

人口は、いくつかの平地のブロックにまとまっていて、その間の交通量は少ないです。

平地のブロックの間は地形的には峠であったり、江戸時代には関所があったり、現在は、トンネルで結ばれています。東海道新幹線にのって、東京から大阪に向かう車中では、住宅の見えない車窓はまれです。通常、欧米の鉄道では、都市を離れると車窓から見える住宅が減っていき、また、見える住宅の数が増えると次の都市に近づいていることになります。こうした風景に慣れた人には、都市の間に切れ目なく住宅が見えるのは異様に映るようです。実は、切れ目はあるのですが、そこはトンネルになっているので、見えないのです。

このブログの分析で見ていますように、コロナウィルスの感染拡大には、感染者の移動が大きく影響します。3蜜を避けて、感染を防ぐことが推奨されていますが、これは実際には、時間と空間を限定しない限り困難です。病院でも、手術時間の手術室であれば、今までも感染管理はできていました。しかし、24時間、病院内すべてとなると管理は難しく、院内感染が発生しています。接触回避による感染防止は、時間と場所を限定しない限りは、漏れが生じて、コストがかかる割に効果は薄い可能性があることを、この事実は支持しています。

そこで、移動データに注目して、岩手県を見てみます。

感染リスクの高い東京から岩手県への人の移動を考えると高速道路か新幹線しかありません。

この2本はほぼ同じルートを通っています。これは、地形的にみれば、関東平野阿武隈川沖積平野北上川沖積平野を通るルートで、利用者数を考えれば、これ以外のルートはありえません。新幹線で東京からの通勤圏、あるいは、日帰り出張圏は、片道2時間の仙台までです。その先は利用が減少します。高速道路は、貨物輸送では重要ですが、新幹線があれば旅客輸送はそちらに流れるので、人の移動には重要ではありません。

つまり、東北新幹線だけを抑えれは、人の移動が制御できるのです。

これは、日本に住んでいると当たり前に思いますが、平地の多い欧米では、ほとんどない特異なことです。宮城県であれば、仙台駅、岩手県であれば、盛岡駅網をはって、例えば、発熱者をチェックすれば、感染リスクを半分くらいに落とすことができると思われます。

図2は、東北新幹線東海道新幹線の駅の旅客数を示しています。2種類の元データを合わせていて、JR東海のデータには年次がありませんでしたので、あくまで、大まかな傾向をつかむデータと思ってください。東京・上野は、東北新幹線の東京駅と上野駅の合計、東京・品川は東海道新幹線の東京駅と品川駅の合計です。この間で2新幹線がわかれます。新青森・八戸、福島・郡山も2駅の合計を示します。

スマホの行動制限のデータでは、通常値に比べ何%の増減かが問題にされます。しかし、こうして、絶対値を見ると、盛岡は仙台の3分の1、名古屋の10分の1程度の旅客数です。

まとめ

まとめます。

岩手県に感染者がいない理由は、感染者が移動してくるリスクが低いためと考えます。盛岡駅の旅客数は仙台駅の3分の1です。ですが、仙台駅の旅客は東京方面を目指す割合が高いですが、盛岡駅の場合には、東京方面を目指す人もいますが、一部は仙台方面を対象にしていると思われます。この場合には、実際のリスクは旅客数の比率よりさらに低くなります。

つまり、岩手県は例外ではなく、移動ルートが限定されるため、感染者数が少ない日本の特徴を代表する事例であると考えます。

日本で、感染者数が少ない理由がまだ不明です。しかし、今のところデータからみて効果のあるコロナウィルス対策は次になります。

  • 感染者の移動を制限して、域内に入るリスクをへらす。

  • 一旦、域内に入った患者は、発症した人をたどって、クラスターつぶしをおこなう。これは、北海道の最初の非常事態宣言で行われました。このときのGoogleデータでは、移動制限はあまりかかっていないので、クラスターつぶしの効果があったと思われます。

このように、移動制限だけなく、クラスターつぶしの効果も大きいと思われます。

タイとマレーシアもそれなりに感染拡大を抑えています。これについては、以前に述べましたように、移動制限が強くかかっています。日本の場合には、主に、地形的な特殊性から、ゆるい移動制限でも、大きな移動が発生せずに、コロナウィルスの拡大が抑えられた可能性があります。

 

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図1 河川の勾配

 

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 図2 新幹線旅客数

 

新幹線駅別定員

https://www.jreast.co.jp/passenger/2018_shinkansen.html

乗車人員ベスト10駅

https://company.jr-central.co.jp/company/achievement/financeandtransportation/transportation5.html

主要河川の勾配

https://www.hrr.mlit.go.jp/river/dosya/sdk_hp/tokusei/kobai1.html