湖南公園(その2)~つくば市とその周辺の風景写真案内(61)

池の位置づけと基本設計

団地の基本設計がわかる図を写真1に示します。

団地全体は、なだらかな斜面になっていて、下流に洪水調整池を設けています。

池に流入する人工河川が団地の上流部に伸びています。この人工河川については、次回に振れます。今回は、池の周辺に注目します。池の南側(写真1の右下)には、保育園と交流センターがありますが、それ以外の建物は全て、池の北側に位置しています。

写真1の下側に左右に広がっている道路が国道123号で、幹線道路になります。この道路は交通量が多いので、この道路と切り離して、団地内道路を住宅をつなぐように作っています。通り抜け車両はないので、団地内の交通量は昼間は少なめです。

洪水調整池は、住宅のある土地より、低くなります。池を回遊する歩道があり、この高さが、余水吐けの高さより1mくらい高くなっています。余水吐けの高さは、回遊道路を基準に決まっています。池の南側では、交流センターの建物の地盤は、回遊道路と同じレベルです。ここから水面までは、3m以下で、さほど、高低差を感じません。高低差は1フロアーより小さいです。

地形は北に向かって標高が高くなっているため、池の北側では、地盤と水面の差はおおきくなりますが、回遊道路はほぼ水平なので、道路から水面の標高は南と北であまり差がありません。

水面は、あくまで上から見るものとして考えられ、魚釣りや、水遊びは禁止されています。

ベンチもありますが、あまり居心地が良いとは思えませんでした。設計者の意図は、ジェイコブスの袋小路をつくる発想とは逆にあるように思われます。この設計では、三密は発生しないので、コロナウィルス時代にはあっているとも思われます。

f:id:computer_philosopher:20200530105417j:plain

写真1 施設の位置図

ガゼボ(gazebo)と橋

この公園のランドマークは、ガゼボ(写真2)と中央の橋(写真3)になっています。

ただし、個人的にはしっくりきませんでした。

違和感の第1はガゼボの周辺に作られている石の塀です。ガゼボに塀をつくる事例は少ないと思います。この塀は、ガゼボの周辺だけにあるので、デザインの統一とは無縁に思われます。

塀があると周辺からガゼボが見えにくなります。なので無用の長物に思われました。

写真3では北から南に向いて橋を撮影しています。橋の右の木立の中にガゼボがかろうじて見えます。橋は中央が、街灯のある広場になっていて、そこだけ、幅が広くなっているのですが、写真3に見るように、その工夫の景観へのインパクトは小さいです。

写真4は逆に、南から北に向かって橋を撮影しています。

橋をわたった向こう側は、地盤が高くなっていて、歩道は階段になっています。この部分が、本来であれば、立体感を醸し出す部分になりますが、階段の周辺は樹木でおおわれ、写真3のように立体感の乏しい景観になっています。この写真では、橋の中央の広場の出っ張りが確認できます。

写真5は池の北の西側から撮影したものです。このアングルですと橋のアーチがきれいに見えて、立体感のある景観になっています。ガゼボの右に丘があり、その高低差は風景に立体感を与えるはずなのですが、ガゼボの右にある樹木に丘が隠れて、その効果は薄れています。今回の写真の中では、これがベストショットになると思います。この写真は3D-LUTでフジのベルビア100を選んで、色合いを濃くつけています。若干、彩度をあげすぎているように思われます。

写真6は。池の北の東側から撮影したものです。この写真では、ガゼボの左にある丘が確認できます。ただし、写真5と比べると、橋は立体感が乏しくなっています。

洪水調整池の場合には、そのまま、池の周りを公園にすると、高さ方向のないのっぺりした景観になってしまいます。この欠点を避ける方法は2つあります。

  1. 実際に高低差のある地形をつくるか、周辺にある地形の高低差を利用する。

  2. 回遊道路に高低差を付けて、回遊すると視覚的に高低差が生じて、景観が変化するように設計する。

1番目の方法は、コストがかかるので、2番目の方法を使うか、1番目と2番目の方法を併用することが多いと思います。これは、日本庭園の回遊式庭園のルーツがあると思われます。回遊式庭園では、ルートを歩きながら、次に展開される景観を予想します。そして予想された景観と実際に現れた景観の間のギャップから設計者の意図を読み取ることが大きな楽しみになります。もちろん、空間の大きさやコストの制約があるので、よほどの名園でなければ、80点になればいいところですが、そこに設計者の「頑張ったでしょう」という声を聴くことができればそれは大きな喜びになります。

しかし、湖南公園は、そうして工夫を感じるとことが希薄です。きれいな景観ではありますが、回遊してのサプライズはありません。規模が大きく、工事費はかかたったと思われます。たとえば、荒川本郷団地の洪水調整池と比べれば、サイズも違いますが、工事費もゼロがひとつ多かったと思われます。

湖南公園は、基本的に1.を使っています。しかし、背後の地形が、立体感を与えにくくなっています。また、橋も、多くのアングルでは、平面的に感じられます。写真7はセーヌ川の橋の例です。ここでは、街灯が目立つことで、高さ方向の存在感が醸し出されています。こうした縦方向の主張が、湖南公園の橋には希薄に感じられました。

最後に、繰り返しますが、湖南公園は、ちょっと見れば、とてもきれいな景観です。しかし、ここまで、きれいにするお金と空間が使えるのであれば、もう一工夫できたのではという印象を持ちました。

機会があれば、一見の価値はあると思います。ぜひ、自分の目でお確かめください。

 

 

f:id:computer_philosopher:20200530105455j:plain

写真2 ガゼボ

 

 

f:id:computer_philosopher:20200530105532j:plain

写真3 橋とガゼボ

 

f:id:computer_philosopher:20200530105618j:plain

写真4 橋

f:id:computer_philosopher:20200530105646j:plain

写真5 橋とガゼボ

 

f:id:computer_philosopher:20200530105726j:plain

写真6 橋とガゼボ

f:id:computer_philosopher:20200530105744j:plain

写真7 セーヌ川の橋