北九州市は第2波なのか~コロナウィルスのデータサイエンス(67)

北九州市の状況

北九州市の感染者数が増えて、混乱しています。昨日の北九州市の感染者数のデータが公表されたのは、夜の8時過ぎでした。いままで、感染者数の発表は、都道府県によって違いますが、早い場合には午後3時で、遅くとも18時のニュースまでには、感染者数の速報値がでていましたので、20時過ぎは異例です。

さて、このブログで何回か申し上げているポイントを振り返ります。

  • 経路不明者とクラスターのリスクは全く違います。クラスターが発生すると、一時的に感染者数が増大しますが、クラスター対策ができれば、そこからの感染リスクは取り除くことができるので、後まで、問題を引きずることはありません。例えば、神奈川県の場合には、非常事態宣言の解除の前に、院内感染によりクラスターが発生して、感染者数が一時的に増えましたが、これが収まると、感染者数は減少トレンドに戻りました。院内感染による感染者数の増加は、病院外の人の行動とは関係がありません。ですから、院内感染によって感染者数が増えたから、病院外も行動制限を強化すべき理由はありません。

  • 非常事態宣言では、行動制限が求められるのですが、この感染防止効果は検証されていません。理論的には感染率が低くなると、効果は非常に非効率になります。これは、行動制限が、交通事故に会いたくなければ車に乗るなという方法であるためです。問題点の第1は、行動制限が非効率なことですが、第2は、行動制限で、感染が防止できないこともあります。院内感染やクルーズ船の中の感染では、関係者は、リスクを熟知して、最大限の努力をしたと思います。それでもクラスターができました。感染者がいた場合には、行動制限で、接触機会を減らす方法は、うまくいかないことも多いのです。

  • 逆に、感染者がいなければ、行動制限しなくとも問題はありません。感染者を、エリア内に入れない移動制限が、確実な対策になります。

保健所の分担システムの違いとおもわれますが、政令指定都市は、都道府県とは別に、感染者数をあつかいます。たとえば、北海道の感染者数は、札幌のデータと(札幌を除く)北海道のデータを合わせたものになります。福岡県の場合も、福岡市、北九州市、これらを除く福岡県のデータに分かれています。そこで、ここでは、北九州市のデータを見てみます。

表2に整理したデータを、示します。末尾に元データもつけておきますが、これをみると行政部局が混乱して、書式が時間とともに変化していることがわかります。

図1はいつもの7日間移動平均の感染者数とGoogle,AppleデータのTransitです。ここでは、Google,

Apple共に、福岡のデータを使いました。図1では、Googleがma_g_fukuoka、Appleがma_a_fukuokaです。軸は右軸で単位は%で日付は、2週間ずらしてあります。

感染者数データは、personが生データで、ma-personが直近7日間移動平均の感染者数で。軸は左で単位は人です。図から、分かるように、4月30日から、5月22日の間には感染者はいませんので、北九州市では、いったんは、域内の感染者数をゼロに抑えることに成功しています。そこで、ここでは、5月23日以降の感染拡大に注目します。

表1は表2から作成した経路不明感染者数です。表2をみるとわかりますが、感染者数の拡大は、病院よ介護施設クラスターの拡大が主な原因です。経路不明感者数は、図1ではma_uk_personで直近7日間の移動平均で表してあります。

今まで、GoogleのTransitデータと感染者数データの間には対応が見られることが多いことを見てきました。

図1の5月23日以降みると、ここでは、GoogleのTransitデータは、経路不明感染者数のデータに対応していますが、感染者数のデータと対応は悪いです。

北九州市の場合にはいったん域内の感染者数がゼロになったので、感染拡大は次の2つのステップを踏むはずです。(注1)

  1. 域外から感染者が流入する。(移流過程)

  2. 域内に入った感染者が未感染者と接触することで感染を拡大する。(拡散過程)

表1をみると、5月23日から5月26日までは、経路の分かっている感染者は15名中1名しかいません。ですので、この間には主に、1.移流過程が働いたと思われます。

5月27日から2.の拡散過程が進んでクラスターが形成され、感染者数が急増しますが、Google Transitデータはこれには対応がみられません。

移流過程とTransitデータ

これは考ええてみれば、当たり前のことです。今まで、Google Mobile Reportの6種類のデータのうち、Transitデータを感染者数のデータとの対応が一番明確で使いやすいデータであるという理由で使ってきました。マスコミも緊急事態宣言の接触を8割減らす指標として、NTTとソフトバンクの駅周辺の人出のデータを使ってきました。ですので、Transitデータは、接触を減らす指標になると考えてグラフを見てきました。しかし、Transitデータは、その通り解釈すれば、域外からの人の流入指標です。つまり、移流過程の指標であって、拡散過程の指標ではないのです。

図1をみれば、そのことは明確です。クラスターでの感染者数の増大に、駅に出ている人の数は関係しません。

この場合には、接触を抑えることが必須になりますが、Googleデータはこれを反映しません。

図1の事例に見ますように、Transitデータは、移流過程に対応するが、拡散過程に対応しません

また、今まで、Google Transitデータで、ある程度感染者数が追いかけられることを見てみました。

この2つから得られる結論は、感染者数は、大域的には、移流過程でほぼきまるということです。

もちろん、院内感染のようにクラスターが形成されかかっていて、感染者密度が高い場合には、接触を減らすことは有効です。しかし、こうした感染者密度が高いところを除いては、接触を減らすことには、感染者を増やさない効果は認められないと考えられます。

今後の対策

北九州市に感染拡大の第2波が出てきているので、緊急事態宣を出すべきか否かの議論がなされています。

これには、次の暗黙の前提があります。

  • 緊急事態が感染拡大を抑える唯一の方法である。

  • 緊急事態宣言による行動制限は感染を抑える上で有効である。

  • 感染者数が感染の重症度の程度を評価する最適の指標である。

しかし、これらには、全て、但し書きがついています。

ですので、まず、前提をチェックすべきです。

筆者の見解は以下です。

  • 感染者数の急増は、クラスターによるものなので、一時的な問題であり、非常事態宣言の検討にはならない。急激な拡大は時間の問題でおさまります。

  • 一方、全感染者数に比べると数は少ないですが、経路不明の感染者数が増えていること、また、対応しているGoogle Transitデータも悪化しているので、この点には注意が必要です。現在の5人弱は、4月上旬のピークの感染者数6人に近づいていて、無視できるほど少ないとは言えなくなってきています。

  • とはいえ、接触回避のための行動制限は、データを見る限り、クラスター以外では、効果が認められないので、移動制限に対策の中心を移すべきであると思います。

     

注1:

なお、今回、移流と拡散の違いが明確に出た理由は、今までの分析してきた都道府県単位よりエリアが狭いため、移流過程と拡散過程が分離しやすかったためと思います。

 

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図1 北九州市の感染者の推移

 

表1 経路不明率の変化

date 感染者 経路不明 経路不明率
5月23日 3 3 100.0
5月24日 3 3 100.0
5月25日 6 5 83.3
5月26日 2 2 100.0
5月27日 8 4 50.0
5月28日 21 4 19.0
5月29日 26 6 23.1

 

表2 北九州市のデータ

date No 経路 行政区 年代 性別 職業等
5月23日 77   小倉北区 30歳代 小倉北特別 支援学校講師
5月23日 78   若松区 50歳代 北九州市職員 (上下水道局 西部工事事務所)
5月23日 79   八幡西区 20歳代 大学生
5月24日 80   門司区 60歳代 無職
5月24日 81   八幡西区 80歳代 無職
5月24日 82   行橋市 80歳代 無職
5月25日 83   門司区 80歳代 無職
5月25日 84   門司区 60歳代 無職
5月25日 85   門司区 70歳代 無職
5月25日 86   小倉北区 80歳代 無職
5月25日 87   小倉南区 10歳代 高校生
5月25日 88 77 門司区 50歳代 小倉北特別支援学校教諭
5月26日 89   小倉南区 80歳代 無職
5月26日 90   戸畑区 20歳代 会社員
5月27日 91   若松区 70歳代 無職
5月27日 92   小倉南区 70歳代 無職
5月27日 93   行橋市 80歳代 無職
5月27日 96   八幡西区 80歳代 無職
5月27日 94 86 小倉南区 20歳代 医療スタッフ
5月27日 95 86 小倉北区 20歳代 医療スタッフ
5月27日 97 82 八幡西区 40歳代 医療スタッフ
5月27日 98 82 小倉南区 30歳代 医療スタッフ
5月28日 107 84 小倉北区 30歳代 医療スタッフ
5月28日 108 84 小倉北区 30歳代 医療スタッフ
5月28日 109 84 小倉南区 30歳代 医療スタッフ
5月28日 110 84 下関市 50歳代 医療スタッフ
5月28日 111 84 門司区 40歳代 医療スタッフ
5月28日 112 84 門司区 30歳代 医療スタッフ
5月28日 113 84 小倉北区 20歳代 医療スタッフ
5月28日 114 84 下関市 40歳代 医療スタッフ
5月28日 115 84 小倉南区 30歳代 医療スタッフ
5月28日 116 84 八幡東区 30歳代 介護施設職員
5月28日 117 86 小倉北区 50歳代 北九州市消防職員
5月28日 103 94 行橋市 20歳代 医療スタッフ
5月28日 102 95 小倉南区 80歳代 無職
5月28日 118 95 若松区 20歳代 エステサロン従業員
5月28日 105 96 直方市 30歳代 介護施設職員
5月28日 119 97 八幡西区 70歳代 会社員
5月28日 106 100 小倉南区 10歳代 小学生
5月28日 99   八幡西区 30歳代 自営業
5月28日 100   小倉南区 30歳代 医療スタッフ
5月28日 101   中間市 70歳代 無職
5月28日 104   小倉南区 10歳代 中学生
5月29日 123 84 門司区 60歳代 介護職員
5月29日 136 96,105 遠賀郡 60歳代 介護施設職員
5月29日 137 96,105 八幡西区 20歳代 介護施設職員
5月29日 138 96,105 八幡西区 60歳代 介護施設職員
5月29日 139 96,105 八幡西区 90歳代 調査中
5月29日 140 96,105 八幡西区 40歳代 介護施設職員
5月29日 141 96,105 若松区 50歳代 介護施設職員
5月29日 142 96,105 八幡西区 40歳代 介護施設職員
5月29日 143 96,105 八幡西区 20歳代 介護施設職員
5月29日 144 96,105 八幡東区 40歳代 介護施設職員
5月29日 145 96,105 八幡西区 80歳代 調査中
5月29日 127 102 小倉南区 30歳代 医療スタッフ
5月29日 128 102 小倉南区 30歳代 医療スタッフ
5月29日 129 102 小倉北区 20歳代 医療スタッフ
5月29日 130 102 小倉北区 20歳代 医療スタッフ
5月29日 131 103 小倉北区 70歳代 調査中
5月29日 132 103 小倉北区 80歳代 調査中
5月29日 133 103 小倉南区 30歳代 医療スタッフ
5月29日 134 103 小倉北区 20歳代 医療スタッフ
5月29日 135 103 築上郡 40歳代 医療スタッフ
5月29日 120   八幡西区 30歳代 無職
5月29日 121   小倉北区 10歳代 中学生
5月29日 122   戸畑区 70歳代 会社員
5月29日 124   戸畑区 90歳代 調査中
5月29日 125   小倉南区 80歳代 調査中
5月29日 126   八幡西区 90歳代 調査中

Google Mobile Report

https://www.google.com/covid19/mobility/ Accessed: <2020.05.28>.

Apple Mobile Report

https://www.apple.com/covid19/mobility Accessed<2020.05.28>.

北九州市の出典データ

https://www.city.kitakyushu.lg.jp/ho-huku/18901209.html

5月23日
例目 行政区 年代 性別 職業等 備考
77 小倉北区 30歳代 小倉北特別支援学校講師 濃厚接触者:同僚、医療スタッフ ;海外渡航歴なし。
78 若松区 50歳代 北九州市職員上下水道局西部工事事務所) 濃厚接触者:家族、同僚 ;海外渡航歴なし。
79 八幡西区 20歳代 大学生 濃厚接触者:家族、友人 ; 海外渡航歴なし。
5月24日
例目 行政区 年代 性別 職業等 備考
80 門司区 60歳代 無職 濃厚接触者:家族、医療スタッフ;海外渡航歴なし。
81 八幡西区 80歳代 無職 濃厚接触者:家族;海外渡航歴なし。
82 行橋市 80歳代 無職 濃厚接触者:家族、医療スタッフ;海外渡航歴なし。
5月25日
例目 行政区 年代 性別 職業等 備考
83 門司区 80歳代 無職 濃厚接触者:家族、医療スタッフ;海外渡航歴なし。
84 門司区 60歳代 無職 濃厚接触者:家族、訪問看護スタッフ、介護サービス利用者・スタッフ ;海外渡航歴なし。
85 門司区 70歳代 無職 濃厚接触者:家族 ;海外渡航歴なし。
86 小倉北区 80歳代 無職 濃厚接触者:家族;海外渡航歴なし。
87 小倉南区 10歳代 高校生 濃厚接触者:家族 ;海外渡航歴なし。

77例目の濃厚接触

例目 行政区 年代 性別 職業等 備考
88 門司区 50歳代 小倉北特別支援学校教諭 77例目の濃厚接触者;濃厚接触者:家族、知人 ;海外渡航歴なし。
5月26日
例目 行政区 年代 性別 職業等 備考
89 小倉南区 80歳代 無職 濃厚接触者:家族、医療スタッフ ;海外渡航歴なし。
90 戸畑区 20歳代 会社員 濃厚接触者:同居人、同僚 ;海外渡航歴なし。
5月27日
例目 行政区 年代 性別 職業等 備考
91 若松区 70歳代 無職 濃厚接触者:家族;海外渡航歴なし。
92 小倉南区 70歳代 無職 濃厚接触者:家族 ;海外渡航歴なし。
93 行橋市 80歳代 無職 濃厚接触者:家族 ;海外渡航歴なし。
96 八幡西区 80歳代 無職 濃厚接触者:調査中;海外渡航歴なし。

86例目の濃厚接触

例目 行政区 年代 性別 職業等 備考
94 小倉南区 20歳代 医療スタッフ 86例目の濃厚接触者;濃厚接触者:調査中;海外渡航歴なし。
95 小倉北区 20歳代 医療スタッフ 86例目の濃厚接触者;濃厚接触者:エステサロン従業員;海外渡航歴なし。

82例目の濃厚接触

例目 行政区 年代 性別 職業等 備考
97 八幡西区 40歳代 医療スタッフ 82例目の濃厚接触者 ;濃厚接触者:家族
98 小倉南区 30歳代 医療スタッフ 82例目の濃厚接触者;濃厚接触者:無し

 

5月28日

84例目の濃厚接触

例目 行政区 年代 性別 職業等 濃厚接触
107 小倉北区 30歳代 医療スタッフ 調査中
108 小倉北区 30歳代 医療スタッフ 調査中
109 小倉南区 30歳代 医療スタッフ 調査中
110 下関市 50歳代 医療スタッフ 調査中
111 門司区 40歳代 医療スタッフ 調査中
112 門司区 30歳代 医療スタッフ 調査中
113 小倉北区 20歳代 医療スタッフ 調査中
114 下関市 40歳代 医療スタッフ 調査中
115 小倉南区 30歳代 医療スタッフ 調査中
116 八幡東区 30歳代 介護施設職員 家族

86例目の濃厚接触

例目 行政区 年代 性別 職業等 濃厚接触
117 小倉北区 50歳代 北九州市消防職員 家族

94例目の健康観察対象者

例目 行政区 年代 性別 職業等 濃厚接触
103 行橋市 20歳代 医療スタッフ 調査中

95例目の濃厚接触

例目 行政区 年代 性別 職業等 濃厚接触
102 小倉南区 80歳代 無職 家族、医療スタッフ
118 若松区 20歳代 エステサロン従業員 家族、エステサロン利用者・スタッフ

96例目の濃厚接触

例目 行政区 年代 性別 職業等 濃厚接触
105 直方市 30歳代 介護施設職員 調査中

97例目の濃厚接触

例目 行政区 年代 性別 職業等 濃厚接触
119 八幡西区 70歳代 会社員 同僚

100例目の濃厚接触

例目 行政区 年代 性別 職業等 濃厚接触
106 小倉南区 10歳代 小学生 家族、友人、先生

上記以外の陽性判明者

例目 行政区 年代 性別 職業等 濃厚接触
99 八幡西区 30歳代 自営業 家族、同僚、友人、同僚の家族、友人の家族
100 小倉南区 30歳代 医療スタッフ 家族、友人
101 中間市 70歳代 無職 家族、医療スタッフ
104 小倉南区 10歳代 中学生 家族、友人とその家族
 5月29日

84例目の濃厚接触

例目 行政区 年代 性別 職業等 濃厚接触
123 門司区 60歳代 介護職員 家族

96、105例目の濃厚接触

例目 行政区 年代 性別 職業等 濃厚接触
136 遠賀郡 60歳代 介護施設職員 調査中
137 八幡西区 20歳代 介護施設職員 調査中
138 八幡西区 60歳代 介護施設職員 調査中
139 八幡西区 90歳代 調査中 調査中
140 八幡西区 40歳代 介護施設職員 調査中
141 若松区 50歳代 介護施設職員 調査中
142 八幡西区 40歳代 介護施設職員 調査中
143 八幡西区 20歳代 介護施設職員 調査中
144 八幡東区 40歳代 介護施設職員 調査中
145 八幡西区 80歳代 調査中 調査中

102例目の濃厚接触

例目 行政区 年代 性別 職業等 濃厚接触
127 小倉南区 30歳代 医療スタッフ 調査中
128 小倉南区 30歳代 医療スタッフ 調査中
129 小倉北区 20歳代 医療スタッフ 調査中
130 小倉北区 20歳代 医療スタッフ 調査中

103例目の健康観察対象者

例目 行政区 年代 性別 職業等 濃厚接触
131 小倉北区 70歳代 調査中 調査中
132 小倉北区 80歳代 調査中 調査中
133 小倉南区 30歳代 医療スタッフ 調査中
134 小倉北区 20歳代 医療スタッフ 調査中
135 築上郡 40歳代 医療スタッフ 調査中

上記以外の陽性患者

例目 行政区 年代 性別 職業等 濃厚接触
120 八幡西区 30歳代 無職 家族、親戚
121 小倉北区 10歳代 中学生 家族、友人
122 戸畑区 70歳代 会社員 家族、同僚
124 戸畑区 90歳代 調査中 調査中
125 小倉南区 80歳代 調査中 調査中
126 八幡西区 90歳代 調査中 調査中