ロックダウンを解除すると何が起こるのか~コロナウィルスのデータサイエンス(58)

ロックダウンの効果はあるのか

欧米では、ロックダウンの解除が進んでいます。日本でも、非常事態宣言の解除が進んでいます。

そこで、ロックダウンを解除すると何が起こるのかが問題になっています。しかし、冷静になって、考えれば、この問いは、それまでのロックダウンの効果があったのかという問の裏返しでもあります。

そこで、効果の検証を復習します。

効果検証の統計的手続き

アビガンなどの投薬の統計的な効果の検証には、原則は、RCT(ランダム化試験)が使われます。RCTでは、投薬群とプラシボ群の2つのグループの患者を比較して、投薬の効果を検証します。この時には、治験に参加している患者のサンプリングがランダムであること、患者と医師が、飲んでいる薬が、投薬かプラシボが知らないことが条件になります。また、サンプルのサイズもある程度大きくないと、白黒がつかなくなります。

このようなRCTの実施は実際には困難です。サンプリングのランダム化をしないとバイアスのリスクを抱えますが、それはさておいても、同じレベルで感染が広がっている複数の都市を準備して、約半分には、ロックダウンを行い、残りの半分にはロックダウンを行わないという社会実験を行う必要があります。しかし、現実にはこうした社会実験はできません。ですので、次善の策が求まられます。

ロックダウン効果の実証

1)統計的因果の拡充

統計的因果ルールではこうした次善の方法を追求する訳です。観測値は、「効果+雑音」から成り立ちます。ここで、雑音には、効果に関係しない変動成分が含まれます。サンプリングの偏りも含まれます。RCTでは、雑音を白色雑音に近づけますが、ランダムサンプリングができないので、「効果>>雑音」に近づく条件を探索します。たとえば、時間遅れが、2週間の場合、それまで、増加していた感染者数がロックダウン開始してから2週間に突然減少しだしたら、ロックダウン以外の効果が原因であるとは考え難いわけです。しかし、この2週間の間に大きな地震がくれば、「雑音(地震の影響を含む)>(ロックダウンの)効果」となり、効果の計測は失敗します。地震を見落とすことは少ないと思われますが、こうした雑音を増加させる要因が見落とされて、その影響が排除できなければ、効果の測定は正しくなくなります。

日本の非常事態宣言の評価でもわかりますように、実際のコロナウィルス対策の効果はグレーです。世界に広げても、ロックダウンに効果があることは検証されていません。更に、過去の事例に遡っても、国のレベルでロックダウンが行われたことはないので、仮に、実証データがあっても、病院などの建物、都市のレベルにとどまると思われます。

2)コンピュータモデル

コンピュータ技術が発達した結果、社会実験ができない場合には、コンピュータモデル上で、数値実験を行う方法があります。コンピュータモデルには、モデルに組み込んだ雑音しか表現できません。数値実験を行うとき、雑音の制御ができますので、モデルが現実をうまく表している限りは、簡単に効果の検証ができます。地球温暖化の因果モデルは、もっぱら、数値実験によっています。比較のときに、温暖化以外のパラメータを固定すれば、温暖化の影響の効果だけが得られます。温暖化に疑問を提示する研究者は、このモデルは、雲の形成過程がうまくモデル化できていないので、予測値に問題があるといいます。モデルは、現実を非常に単純化したものです。このときに落ちてしまった要素が無視できるか、必須であるかが議論のポイントになります。

コロナウィルス対策のロックダウンでは、通常、実効再生算数が使われます。これは、SIRモデルを前提としています。SIRモデルには空間の広がりが組み込まれていないため、国や県をまたぐ、感染は、感染者数を計算条件で与えないと計算できません。モデルの推定結果では出てきません。逆に、エリアを広く国にとってしまうと、県をまたぐ感染者の移動にとなう接触と、隣にいる人との接触がモデルの中で区別できなくなります。ですので、SIRモデルは広いエリアで使うには適さないといわれています。

SIRモデルの一番の問題点は、実態に合わないということです。たとえば、日本が欧米に比べてなぜ感染者数が少なのかをSIRモデルは説明できていません。この原因には、次の2つが考えられます。

  • モデルの構造に無理があり、改善が必要である。

  • 使っているパラメータの値が現実にあっていない。

発想の転換の必要性

以上のように、欧米ではロックダウンしたら、そのあとで感染者数が減少したのですが、そのことは、ロックダウンをしなければ、もっと感染者数が増えていたことを意味しません。ロックダウンの効果は検証されていません。

以上は、ロックダウンの効果を実証するという視点での整理です。しかし、重要なことは、統計的な効果の検証や数値モデルによる効果の検証をする以前に、生物学の知見として以下のことが検証するまでもなく自明だということです。

コロナウゥルスの接触しないかぎり、感染はおこらない。

この条件は、さらに分解できます。

  1. (仮に接触しても)コロナウィルスがなければ(感染者がいなければ)感染はおこらない。

  2. (コロナウィルスがあっても、なくても;感染者がいてもいなくても)接触しなければ感染はおこらない。

1は、外部からの侵入防止です。2は、非常事態宣言やロックダウンの発想です。

しかし、この分解には課題があります。感染者がいない場合には、2.は過剰な対策になります。日本のように感染率が低い場合、例えば、10万人あたり0.5人の場合、対策の20万分の1=1-0.000005=99.99995%は本来いらなかった対策であることになります。これは、7日間ですので、日当たりでは、7倍になりますが、依然100%に近すぎることに変わりはありません。つまり、費用便益では、ありえない水準の過剰な政策になります。

ですから、次のように問題の分解を改善すべきです。

  1. 感染者がいると推定される確率が高い場合には、コストをかけて接触回避を行う。

  2. 感染者がいると推定される確率が低い場合には、コストのかからない範囲で簡単な接触回避を行う。

問題は、1.2.をどこで区別するかです、筆者は、スマホアプリの有効化を期待しています。

「ロックダウンを解除する、解除しない」報道が多く見られますが、データサイエンスでは、ロックダウンの有効性は検証されていません。また、こうした単純化された2分論は、データサイエンスでは見れば、無意味なので、今後、適切はリスク評価して、過剰な対策を排除できるかが焦点になるべきです。