マッピングと感染者数の推定~コロナウィルスのデータサイエンス(その11)

今回は、ジョンホプキンス大学のWEB以外に使えるデータがあるか、検索してみました。

その中で、「新型コロナウイルス感染症対策専門家会議」の公開資料もチェックしました。

全体が長くなったので、最初に、要点だけを列記します。

  • ジョンホプキンス大学のWEBレベルにGISでデータ解析ができていたサイトは、ジャッグジャパン株式会社だけです。

  • 厚生労働省の専門家会議は、2月24日が最後で、それ以降持ち回りなので、議論はできず、事務局案をチェックしているだけと思われます。最新の第5回は3月9日に開かれています。追加の資料がないとして、この資料だけから分析すると次の問題点があります。

    • 「 本シナリオにおける最大時点は、各地域において、流行が開始されてから概ね3か月(最速2か月弱)後に到来すると推計」と書かれていますが、時間変化(時間微分)に関する資料が皆無です。これは、このシナリオの是非を検討する以前の問題です。同様に、表5から表6を算出する根拠が示されていません。

    • 全世代平均の感染率は9.0%になっていて、その結果、10万人あたりの発症者は8987人になっています。これは、このブログで計算している湖北省の118人の76倍、クルーズ船の1875人の4.8倍になります。特定の病院の院内感染、特定の狭い地域の感染ならともかく、都道府県単位の推定値としては、ありえない値と思われます。

 

データ検索

新型コロナウイルス感染症対策の基本方針

新型コロナウイルス感染症対策の基本方針 新型コロナウイルス感染症対策本部決定

にはバックデータはありません。

新型コロナウイルス感染症対策専門家会議

新型コロナウイルス感染症対策専門家会議」の会議資料は以下で入手できます。

しかし、クルーズ船を除くと、少数症例がのっているだけで、統計処理可能なデータはありません。

このデータで、感染拡大予測ができるとは思えません。

第5回会合(持ちまわり)が9日に開かれました。「第4回会合までの分析」以下はその前に書いたものです。

第5回会合の分析

パラメータは次の3つが使われていると書かれています。

モデル式がないので、はシミュレーションについては、まったく、判断できません。

また、「一つの目安となるものであり、参考とされたい」など、言い訳の文章が多く、うんざりします。自治体の職員の方は、問題があっても、中央官庁に現在考えられるベストを示してほしいと考えていると思います。基本的に出先にいくほど、担当者数が減るので、専門的な検討は難しくなります。ですから、中央官庁は、出先をサポートすべきで、責任逃れと思われる「言い訳」は平時の委員会の資料にはつきものですが、現時点の危機管理として問題があると思います。もちろん、モデルパラメータは、地域差があるので、一律にはいきませんが、感度分析をするなり、モデルを自治体職員が使えるようにサポートするなどの工夫がなされるべきです。もっといえば、それらの準備は、平時において可能なはずでした。

IT系の知識のない方は、このコメントはわかりにくいかもしれませんが、例えば、以下に引用する「ジャッグジャパン株式会社」さんのGISのページをみていただけるとイメージがわくと思います。これは、過去の実績ですが、この上ににモデルを追加して、パラメータを与えれば自治体職員が将来予測をシミュレーションできるようにすることは、コスト的にも、技術的にも、決してハードルが高いものではありません。

  • 発症率は感染性を規定する基本再生産数(R0)=[1.4 1.7 2.0]

  • 入院率

  • 重症化率

(以下引用)


3.都道府県において試算を行う際の留意点

実際の新型コロナウイルス流行については、年齢構成や人口密度などの地域による差異が影響するものと考えられる。よって、各都道府県等においては、本シナリオを用いた理論的な算出による医療提供体制の目安も踏まえつつ、地域の特性を把握し、地域における過去のインフルエンザの流行動態等を検討したうえで対策を推進する必要がある。

本シナリオにおける最大時点は、各地域において、流行が開始されてから概ね3か月(最速2か月弱)後に到来すると推計された。ここにおける流行が開始された点は、疫学的関連性が把握できない程度に感染が拡大した時点とできるが、季節性インフルエンザ等における流行入りの基準も一つの目安となるものであり、参考とされたい。また、感染症における患者発生数の最大時点が到来する時期については、公衆衛生上の対策を行うことにより後ろ倒しされ、また最大時点における患者発生数等についても、公衆衛生上の対策を行うことにより、少なくなることが一般的に知られている点は留意していただきたい。

なお、新型コロナウイルス流行については、患者がクラスターで発生する傾向が認められることから、地域によって大きく流行が広がる場所がある一方で、全く患者が発生しない地域があるなどの地域差があることや、流行が広がる過程においてもある時期を境に急に多数の患者が発生したり、患者の発生が起こらない時期があったりとなめらかな増加曲線を認めがたい傾向があることに注意が必要である。従って当該シナリオについては、全国の人口を用いて計算することや、単純に各自治体のピークの数値を足しあわせることで、全国の感染者数などを想定するものとはならないものと考えている。

 

都道府県等において、本シナリオを踏まえた医療提供体制を確保するための目安を算出するには、以下の数式に各自治体の世代別人口を挿入することで算出できる。

1)(ピーク時において1日あたり新たに新型コロナウイルス感染症を疑って外来を受診する患者数)=(0-14歳人口)×0.18/100+(15-64歳人口)×0.29/100+(65歳以上人口)×0.51/100

(2)(ピーク時において1日あたり新型コロナウイルス感染症で入院治療が必要な患者数)=(0-14歳人口)×0.05/100+(15-64歳人口)×0.02/100+(65歳以上人口)×0.56/100

(3)(ピーク時において1日あたり新型コロナウイルス感染症で重症者として治療※が必要な患者数)=(0-14歳人口)×0.002/100+(15-64歳人口)×0.001/100+(65歳以上人口)×0.018/100

(以下の表はR0=1.7のみを引用)

  

f:id:computer_philosopher:20200310091202p:plain

表4

 

 

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表5と表6

 

https://www.kantei.go.jp/jp/singi/novel_coronavirus/senmonkakaigi/sidai_r020302.pdf


第4回会合までの分析(第5回委員会の前に書いた分析)

最後の第4回は2月29日ですが、これは持ち回りで、実質審議は、第3回2月24日が最新になります。3月9日現在で、29日で10日前、24日で、15日前になります。実際に24日の見解が最新版のようです。

ここで決めてになっている点は、以下です。

なお、「見解」の文章は日本語としては矛盾していて、筆者には理解できません。特に、「約80%」の数字は根拠(母集団の定義)がなく意味が不明です。筆者の解釈と文章の対応を示します。

  • 症状の軽い人も感染させるので注意すべき:「症状の軽い人も、気がつかないうちに、感染拡大に重要な役割を果たしてしまっていると考えられることです。」

  • 症状の軽い人は感染さないので安全:「これまでに国内で感染が確認された方のうち重症・軽症に関わらず約80%の方は、他の人に感染させていません。」

 

新型コロナウイルス感染症対策の見解(一部抽出)

「この一両日中に北海道などのデータの分析から明らかになってきたことは、症状の軽い人も、気がつかないうちに、感染拡大に重要な役割を果たしてしまっていると考えられることです。

これまでに国内で感染が確認された方のうち重症・軽症に関わらず約80%の方は、他の人に感染させていません。一方で、一定条件を満たす場所において、一人の感染者が複数人に感染させた事例が報告されています。


情報源

新型コロナウイルス感染症対策専門家会議

https://www.kantei.go.jp/jp/singi/novel_coronavirus/taisaku_honbu.html

自治体・医療機関向けの情報一覧(新型コロナウイルス感染症

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00088.html

上記の下のリンク

新型コロナウイルス感染症対策の基本方針の具体化に向けた専門家の見解(2月24日)

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00093.html#policy


ちば銀のレポート

ちば銀の水野さんがいかのように傾向を分析しています。分析はありがたい指摘ですが、検査数のデータを見ていないので、一概には賛同はしかねます。


わたしの意見 ― 水野 創 バラツキある新型コロナウイルス有症状者の都道府県別状況

(「(株)ちばぎん総研BusinessLetter」2020年3月5日号に掲載)水野 創[ちばぎん総合研究所取締役社長]

 ①3月に入り増勢強まる:北海道、神奈川、大阪

 ②今週(3/1以降)新たに発生:宮城、新潟、岐阜、静岡、兵庫、大分

 ③2月21日以降ほぼ2週間発生していない:三重、奈良

https://www.crinet.co.jp/message/archive/20200306.html


感染者マップ

日本でもコロナウィルスの感染者マップがでました。

以下のようにマップをみるとその組織のデータサイエンスの力が一目でわかってしまいます。

ジョンホプキンス大学のWEBを参考していると思われるマップは1例だけでした。

おそらく、英語のWEBは見ていない可能性もあります。

厚生労働省

ただし、都道府県単位であることと、地図上のバーをクリックすると、なんと、個別症例が表示され、棒グラフの高さは、症例数を数えるという仕様になっています。これでは、都道府県単位の感染者数の表と同じだけの情報量しかありません。日時確定感染者数は棒グラフで、1日の日本全体の値が表示されるだけで、都道府県別はわかりません。

すでに、ジョンホプキンス大学のWEBがあるのですから、もう少しまともにならなかったのでしょうか。

これでは、ジョンホプキンス大学のWEBを参考にしているとは思えません。

都道府県別の感染状況(累計・NHKまとめ)

アクセスが多すぎるようで表示に時間がかかります。都道府県別の色塗り地図で、内容は、厚生労働省と同じで使いものになりません。

日テレニュース データとグラフで見る新型コロナウィルス

3月4日公開みたいです。日本はと道具県別です。表示は都道府県にところに〇がありその色がかわるだけです。〇のサイズを変えないのは手抜きと思えます。世界版のありますが、国別に同じ表示があるので、ジョンホプキンス大学のWEBがあれば不要です。

朝日新聞 新型コロナウイルス感染者数の推移

都道府県別で、基本は厚生労働省と同じです。過去にさかのぼって日別累加数が都道府県別に表示できる点が追加点です。

ジャッグジャパン株式会社(お勧めです)

こちらは、発生位置(?)のデータがわかります。また、データもダウンロードできるのでGISソフト上に表示できます。濃淡凡例がhigtとlowなので、単位がわかりませんが、危険なところを避けるには利用できて有用です。このWEBの開発者はジョンホプキンス大学のWEBを参考にしていると思います。

新型コロナウイルス感染症対策専門家会議」はこのレベルの解析結果を見ていないのではないかと思います。

Flourish

このページはマップではありませんが、中国以外の時系列変化がわかります。

以下にURLを示します。

厚生労働省のマップ

https://mhlw-gis.maps.arcgis.com/apps/opsdashboard/index.html#/c2ac63d9dd05406dab7407b5053d108e

都道府県別の感染状況(累計・NHKまとめ)

https://www3.nhk.or.jp/news/special/coronavirus/data/

日テレニュース データとグラフで見る新型コロナウィルス

http://www.news24.jp/archives/corona_map/index.html

朝日新聞 新型コロナウイルス感染者数の推移

https://www.asahi.com/special/corona/

ジャッグジャパン株式会社のマップ 

COVID-19の都道府県別感染者数

https://gis.jag-japan.com/covid19jp/?fbclid=IwAR30DDBBnQRcXnIOoqJmjbs-Z4kYIS0LvHMBqwBbORWRV3TpjYstvrrBrE4

Flourish 新型コロナウイルスの国別感染者数(中国以外)

https://public.flourish.studio/visualisation/1438279/?fbclid=IwAR36aPI3Nlk2E6yOBOMM4BVKVTVVGE226w8mLWDkGBf1KaUFwumMEac3UvE