映画「パラサイト」

映画「パラサイト」を見てきました。

コメントは2つあります。「寓話」と「暗さ」です。

寓話

映画全体が「寓話」の集合体になっています。個別のエピソードは明らかに「寓話」としてみないと、不自然で納得ができません。ここまで、リアリティを排除して「寓話」にのりかかった映画が最近では思いうかびません。また、登場人物は、大きく3つのグループに分けられ、グループ間の衝突がおこるだろうというレベルでは、先が見通せてしまいます。もちろん、実際には、AグループのBとCグループのDが衝突する訳で、個人レベルのBとDが誰になるかは、展開をみないとわからないのですが、大きなグループレベルでは、8割くらいは先が見えます。結局、最後の2割で、どこにエンディングを持ってくるかに、興味は集中します。

逆にいうと「寓話」であるという割り切りが出来れば、前半の3割くらいは、展開が読めてしまって、退屈です。

評価は、最後の2割をどのように感じるかに大きく左右すると思います。

映画の半分くらいで、週末に向かった展開が大まかに読めると同時に、最後まで、「寓話」でおわることは難しいのではないかと、感じてみていました。

最後まで、見て、エンディングが「寓話」として、しっくりくるのかといえば、歯切れが悪い感じが残りました。エンディングにその前の「寓話」の延長としての必然性があまり感じられませんでした。もちろん、このことは、映画を半分くらいみて時点で、この「寓話」の延長でエンディングをまとめるのは難しいのではないかと感じていたことの裏返しでもあります。ですから、筆者に、代替案があるわけではありません。

暗さ

映画が始まって直ぐに、これは、貧困問題をも扱っていることがわかります。

しかし、映画は、お金を払って見に来ているので、楽しめるのかという疑問がついて回ります。

この映画では、韓国では、大学を出ても就職口がないという話が出てきます。

実際に韓国では、良い働き口がなくて、韓国籍を消滅するする人が年間2~3万人います。これは、日本の10倍だそうです。韓国の人口は日本の約半分なので、人口当たりで考えれば20倍になります。EUにはポルトガルのように国内に就職口がなく、人口の2割が流出して海外で働いているという国もあります。日本も、ここ20年で、相対所得が先進国の中では半分になってしまった(ほかの先進国の所得は約2倍になった)ので、良い就職口はありません。投資家のジム・ロジャーズはもし自分が10代の日本人だったら、海外に働き口を求めただろうといいます。日本でもここ1,2年、年功序列をやめて、能力のある人従来以上の給与を払う会社が出てきていますが、この程度で頭脳流出を止められるとはおもえません。中国では、流出頭脳を呼び戻すために、年間5000万以上、良い住宅、学校の無料確保を提供しています。国籍は、移動していませんが、中国の人は、現在、アフリカで100万人以上が働いています。中国の人口は10億を超えているので、食料がなくなりそうならば、1億人くらいはアフリカで働いてもらってもよいだろうという話が全人代に出たとも言われています。


ジム・ロジャーズが断言「私が10歳の日本人なら、ただちにこの国を去るでしょう」

https://courrier.jp/news/archives/70902/?ate_cookie=1582350537


 

この映画は、カンヌ映画祭アカデミー賞をもらっていますが、欧米の人にとっては、アジアの就職の話は対岸の火事で、自分のことではないので茶化して楽しめるのかもしれませんが、日本のような当事者は、単純にたのしめず、暗くなります。特に、お金持ちの社長と労働者というステロタイプに問題を持ち込んでも、解決にはならないので、暗さはぬぐえませんでした。既得利権のイメージが強いのは、韓国の特徴かもしれませんが。

ニューズウィークを見ていたら、この映画の中には、「独島の歌」の替え歌が出てくるそうです。


映画「パラサイト」に隠れている韓国のもう一つの「リアルさ」

https://www.newsweekjapan.jp/che/2020/02/post-2.php


韓国の場合、「両班」のころから、既得利権に乗ることがお金持ちになる条件と考えられました。お金持ちになるには、「両班」のような利権層に属することが不可欠という考えです。このルールが正当化されますと、「正しいことが通る」のではなく、「利権を持った人の主張が通る」ことになります。いわゆる忖度の世界になります。歴代の大統領がみな逮捕されてしまうことみると、韓国は法治国家ではなく、「利権を持った人の主張が通る」人治国家ではないかと思われます。人治国家の問題は日本にもあります。


クルーズ船対応に見る日本の組織の問題点──権限とスキルの分離が組織を滅ぼす

https://www.newsweekjapan.jp/reizei/2020/02/post-1146.php


欧米では、民衆主義の発展ともに人治主義は減少し、英国では「君臨すれども統治せず」になりましたし、米国では、トランプ大統領の人治主義的な発言は批判されています。

東南アジアが経済成長をした前世紀には、「クローニー資本主義」「縁故資本主義」(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%B8%81%E6%95%85%E8%B3%87%E6%9C%AC%E4%B8%BB%E7%BE%A9)ががよいという時代も一時期ありましたが、その後、否定されています。しかし、東南アジアの現状は、縁故資本主義とみなすこともできます。日本に新産業が育たない原因も、「既得利権の維持=縁故資本主義」にあるといえます。この問題は根が深いのですが、「独島の歌」の替え歌を使うように、この作品がそこまで深く踏み込んでいるとは思えません。ただ、暗いだけです。

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