前回はネガとポジのダイナミックレンジが同じであれば、露光は連動させざるを得ないことを説明しました。
今回は、ネガのダイナミックレンジがポジのダイナミックレンジより大きい場合の説明です。
説明に入る前に、ちょと前までのデジカメ、カラーフィルムカメラでは、ネガとポジ、JpegとRAWのダイナミックレンジにあまり差はありませんでした。フィルムカメラで、ネガとポジの間に差があるのはモノクロームの場合だけです。しかし、焼き付け時間を標準からずらすのであれば、自分で現像する必要があります。
カラーフィルムを使ったり、モノクロフィルムでもラボを使って現像、焼き付けするのであれば、ネガとポジの露光の連動に頼るしかありません。これが、露光をずらす手法が普及しなかった理由です。また、カメラの標準露光制御に取り入れられなかった理由でもあります。
いま、ネガのダイナミックレンジが10EV、ポジのダイナミックレンジが8EVであったすると、サンプル1のような撮影レンジの図が出来ます。これは、リアルでの18%グレイが正確に把握されており、ネガとポジの現像、焼き付けが標準で行われた場合の図です。
サンプル2は前回と同じように、撮影時に露光を+1EV増やした場合です。ネガとポジのダイナミックレンジの位置が左に1段ずれます。ここまでは前回と全く同じです。
サンプル3は前回の3番目のサンプルと同じように、撮影時に露光を+1EVずらし、焼き付け時に逆に-1EVずらした場合です。今回は、ネガのダイナミックレンジがポジより、広いために、破綻はおこりません。
リアルの18%グレイのDZ11が、ポジでも18%グレイCZ5に転写されます。
つまり、
ポジの18%グレイのカラーゾーンCZ5にはリアルの18%グレイのカラーゾーンに対応するDZ11が転写されるという点では、次の2つの操作は等価です。
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ネガ撮影時0EV、ポジ焼き付け時0EV
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ネガ撮影時+1EV、ポジ焼き付け時-1EV
それでは、この2つは全く同じかというと、そうではありません。
ゾーンシステム
2つの「ダイナミックレンジの転写図」の下には、リアルの世界で、ネガによく転写される部分を水色で示しています。2番目の方が、この部分がダイナミックレンジが低い方に移動しています。
つまり、2番目の方が18%のグレイのゾーンより、暗いゾーンのトーンが細かく保存されているのです。逆に、言えば、18%のグレイのゾーンより、明るいゾーンのトーンは一部が失われています。
この方法をアンセル・アダムスはゾーンシステムと呼びました。
リアルの世界を、カラーゾーンに分けます。(アダムスの時代には、ダイナミックゾーンを描くことは出来ませんでした。)18%のグレイゾーンに注目します。
一番表現したい部分が
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18%のグレイゾーンの時は、ネガ撮影時0EV、ポジ焼き付け時0EV
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18%のグレイゾーンより1つ暗いゾーンの時は、ネガ撮影時+1EV、ポジ焼き付け時-1EV
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18%のグレイゾーンより1つ明るいゾーンの時は、ネガ撮影時-1EV、ポジ焼き付け時+1EV
にすれば、よいのです。
アダムスのゾーンの説明は、全体を11ゾーンに分けています。そして、これは、カラーゾーンのことです。
しかし、カラーゾーンとダイナミックゾーンの対応関係を考えると、訳がわからなくなります。アダムスの時代にはEVの計測は容易ではなかったので、この点に深入りしないことが理解の上では大切と思います。
ここでのゾーンシステム説明は、筆者のオリジナルな解釈で、カラーゾーンの数は問題にしていません。
アダムス以降
アダムスの表現は、EV計測が困難であったために、わかりにくいものとなりました。しかし、アダムスの慧眼は、良い写真を考える上で、非常に大切な視点でした。しかし、その後のカメラの歴史を見ると、フィルムのカラー化によって、ダイナミックレンジが狭くなった結果、アダムスの知見は生かされることなく、ダイナミックレンジが狭い場合の露光のワークフローが固定化されてしまいます。