「映画ダウントン・アビー」の描く黄昏の英国

映画のおすすめな点

TVドラマは見ていませんが、「ダウントン・アビー」を見てきました。

ポイントは次の点です。

  • 大英帝国の黄昏」がテーマの一つ。エルガーの音楽の世界観、カズオ・イシグロの世界などの共通するサッチャリズムの前のイギリス。サッチャリズムの直前は、本当に悲惨だったので、ある意味では、経済が持ち直して昔を振り返る余裕ができたということだろうとも思います。

  • 何事にも極端に真剣にならず、距離をおく、ユーモアの世界。世の中を達観した人生観。多分この反対にあるのが、革命思想であり、民族自決による植民地の独立であると思いますが、1960年代の植民地の独立まえには、「英国」らしさの象徴でもありました。サマセット・モームに代表されるようなユーモアとウィットを大切にした極上の当たり前を描く世界観です。

  • オムニバス形式を採択したのは、元のTVドラマからであったと思いますが、映画でも、オムニバスのお手本ともいえる出来栄えです。映画史上に名を遺すオムニバス映画もありますが、なんといっても、数は少ないので、オムニバス好きにはお勧めできます。逆に、オムニバスにすると、大きなヒットは期待できません。オムニバスは、連続TVドラマの手法としては、複数のタイプの視聴者を引き付けられるメリットがあります。しかし、単品の映画では、商業的な成功にはなりにくいのです。これが、オムニバス映画が少ない理由と思います。ともあれ、TVドラマの延長という機会が得られたことで、素晴らしいオムニバス映画が作られたことを喜びたいと思います。なお、私は、TVドラマは見ていないので、TVドラマの見ていないことが、鑑賞上の障害にはまったくなりません。ただし、映画の最初の部分で、人物紹介が入ります。これは、オムニバスを意識した構成です。

というわけで、以上の3点にうち1つでもお好きな点があれば、大変お勧めできる映画です。

1月16日現在で、上映館も多くはなく、ヒットするとはおもえませんが、この映画の場合、おおきなヒットが期待できないにも関わらず制作されたことを感謝すべきです。

インターネットと認知科学

インターネットが出てきたときに、今まで不可能であったマスでないメディアが可能になるとか、双方向でのコミュニケーションが可能になるといわれました。商品でもロングテールのニーズの少ないあまり売れないものが売れるようになるといわれました。確かに、ネット販売では、店舗では扱っていない激辛調味料のようなマニアックな商品も手に入るようになりました。分布のすそ野は少しひろがりました。しかし、一方では、分布のピークも大きくなり、頻度事の商品分布の形はあまり変わっていません。

最近の認知科学の進歩により、人間の脳に関する理解は深まりつつあります。最近の脳の理解では、進化の上で言葉を使うことのできる最大のメリットは集団行動をとれる点にあるようです。このためには、同じイデオロギーものとに、集団行動がとれることが重要であっって、そのテーマは、わかりやすく、理解しやすく、信じやすければ、正しい必要はありません。人々をうごかすのは、真実ではなく、わかりやすく、自分に都合のよく見えるテーマです。こうしたことを最近では、人を動かすのはポストトゥルースであるといっています。

インターネットは、こうした人間の特徴をマスコミ以上に、明らかにしました。

一方、英国には、この映画のように貴族がいて、食べるのに困らないため、マーケットの小さい文化が維持されています。

この映画の世界はこうした世界を描いているともいえます。

ニュートンや、ダーウィンといって自然科学の巨人があらわれているのも、こうした人気に左右されずにマイペースで生活できる人がいることが根底にあります。

ダウントン・アビーのモデルになったている建物は、かって、ツタンカーメン発掘のスポンサーであったカーナボン卿の住居でした。いろいろと、考えると、感慨深いものがあります。

EUなき英国の世界

最後に、あと10年したら、という思いがおこりました。この映画が、英国がEUを離脱する前だったから実現したのではないかという気がします。

その思いが正しかったかは10年後に振り替えれば、白黒がつくことではあるとおもいますが。