ゾーンシステム
ゾーンシステムは、アンセル・アダムスが開発した撮影・現像手法です。
次に厳密性は無視して単純化して、要約します。
前提条件
モノクロ写真のダイナミックレンジの違い。
実世界:12EV
ネガ:10EV
ポジ:8EV
第1に単純に線形変換で考えると、
1)ネガの撮影(12EVから10EVを切りとり)
2)ポジの焼き付け(10EVから8EVを切りとる)
の必要があります。
露出は18%グレーカードを中央値に考えているので、これは、切りとる場合の、中央値に設定問題になります。
第2に、ダイナミックレンジは変わらずに、その最大値と最小値の間の非線形変換を考えた場合に、何を優先すべきかが問題になります。このときに、元の画像のトーンが細かなところと、トーンが粗なところがあれば、トーンの細かなところが保存されるように変換すべきです。
フィルム写真の場合には、濃淡は化学反応の薬品の濃度で決まるため、細かなトーンが表現できる部分は、ダイナミックレンジの中央値付近になります。
第3に、最初に戻って、12EVから10EVを切りとり、さらに、10EVから8EVを切りとる時には、中央値がトーンの細かな部分に対応するように変換すべきです。
デジタルゾーンシステム
最初に断っておきますが、フィルムカメラとデジタルカメラは別物です。ですから、できれば、今更、フィルムカメラのことを掘り返すのは、避けたいところです。
一方、カメラ用語には、フィルム時代の歴史を引きずっているものがあります。この場合、フィルムカメラのことを理解していないと、用語の意味が理解できません。一方、フィルムがデジタルになった結果、同じ用語でも、意味するところが変化していることも多いです。
ゾーンシステムはそうした用語のひとつです。フィルムがデジタルになった結果、ゾーンシステムという用語はそのままでは意味をなさなくなりました。解釈の幅があるのです。しかも、解釈は、人によって、微妙にことなるという状況にあります。
ゾーンシステムの根本は、ダイナミックレンジとトーンレンジ(細かなトーンが表現できる部分)です。
ダイナミックレンジの課題は、フィルムではネガの撮影時とポジの焼き付け時の2回発生します。
デジタルカメラでも、RAWの撮影時にはダイナミックレンジの問題が発生します。しかし、RAWからJpegへの変換時には、データが浮動小数点に変換されるため、トーンレンジの問題しか発生しません。
撮影時のRAWファイルのダイナムックレンジの問題は、非常に重要で、項目を起こして、単独で論ずるに値するだけの、内容があります。しかし、darktableの処理の範囲だけに限れば、まず、RAWファイルありきで、ソフトウェアが出来ていますので、この問題は、対象外になります。つまり、darktableの操作の範囲だけで、ゾーンシステムを論ずることは出来ないのです。
次に、RAWファイルが適切なダイナミックレンジで撮影されているものとして議論を進めますと、ゾーンシステムの課題は、適切なトーンレンジの変換問題になります。ゾーンシステムは、モノクロの写真を9のゾーンにわけます。
マーカーはボーダーを左クリックするとできます。右クリックでマーカーが削除されます。
ゾーンの数は、マウスのホイールで変更できます。
次の図は、ゾーンシステムの初期値です。9つのゾーンがモノクロのグラデーションで示されています。ここでは、スラーイダーは1列にように見えますが、初期値では、2つのスライダーの区切りが一致していて、1つに見えるだけで、スライダーは2列になっています。上のスライダー画面に表示されるJpegのゾーンを表しています。Jpegは8bitなので、1つのゾーンが1bitであれば、8つのスライダーになります。ここでは、ゾーンは9つなので、ゾーンの間隔は1bitより少し小さいですが、上のスラーダーのゾーンの幅は均等になっています。下のスライダーがdarktable内の画像データのゾーンを示します。
マウスが左から3番目のゾーンのスライダーの上にあります。このとき、3番目のゾーンに対応するエリアが縮小画像の上に黄色で示されます。(参考図を見てください。)この黄色のエリアの面積が非常に大きい場合を考えます。例えば、全面積の半分が黄色に塗りつぶされたとします。これは、このゾーンにdarktable内の画像データの半分が含まれることを意味します。一方、上のスライダーの左から3番目のゾーンのJpegに占める幅は1/9で1bit弱です。ですから、この状態では、元の画像のデータの半分が全体の1/9のトーンで表示され、残りの半分が全体の8/9のトーンで表されることになります。Jpegのゾーンを近似的に1bit、darktable内の画像データがもとのRawの12bitであったとしたら、ここでは、1/12のデータ圧縮がおこるので、細かなトーンの変化は飛んでしまいます。
この問題を避けるには、Jpegの各ゾーンのデータ量が等しくなるように、darktable内の画像データを変換すればよいことになります。例えば、左から3番目のdarktable内の画像データの面積が、1/9の4倍あるのであれば、この1ゾーンに対応するJpegのゾーンは4つにまたがればよいことになります。
そのためには、下のスライダーを動かして、調整すればよいことになります。
カラーの問題
アンセル・アダムスのゾーンシステムは、モノクロ写真を対象とするものでした。
これは、当時のカラー写真のダイナミックレンジが狭かったためで、ゾーンシステムのダイナミックレンジとトーンレンジを最適化するという考え方は、カラー写真にも適用可能です。
また、現在の最先端のデジカメのカラー写真のダイナミックレンジは、15から16bitあります。
ですから、素材としては、カラー写真のゾーンシステムは可能です。
混乱をまねく要因は2つあります。
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何をゾーンシステムと呼ぶか解釈の問題:カラーのゾーンシステムの解釈の仕方は1通りではないので、カラーのゾーンシステムが何を指すかには、疑問がつきます。更に、モノクローム場合だけを、ゾーンシステム呼ぶ解釈もありえます。
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ダイナミックレンジの変化の問題:デジタルカメラ固有の問題として、センサーの改良に伴い、ダイナミックレンジが拡大してきていることがあげられます。デジタルカメラの当初のセンサーのダイナミックレンジは8bitあるか、ないかというレベルでした。ダイナミックレンジの余裕によって、ゾーンシステムの適用方法は変化します。ですから、いつのデータ(ダイナミックレンジがいくつのデータ)かで、内容が変化するはずです。
darktableでダイナミックレンジとトーンレンジの問題を取り扱うモジュールはフィルミックRGBです。これは、比較的新しいモジュールで、カラーを扱います。
ゾーンシステムモジュールは、ゾーンシステムをLab空間のLチャンネルに適用しています。この方法は、変換しても色が変化しない長所がありますが、RGBのダイナミックレンジとトーンレンジを直接に扱ってはいない欠点があります。また、問題をLチャンネルに特化したため、モノクロ写真とカラー写真を統一の方法で処理できるため、考え方は単純になります。
モノクロの利用例
サンプル1は、モノクロ画像のゾーンシステムへの適用例です。
ここでは、モノクロ画像は、カラー画像からモノクロームノジュールを使って、作成しました。
チャンネルミキサーモジュールを使うとより高度はモノクロ画像をつくることができます。
また、それらからわかることですが、フィルムとは異なり、デジタルカメラでは、原則、モノクロ写真というものは存在せず、RGBを組み合わせることで、近似的にモノクロームを作成していることがわかります。なお、プリンターでは、RGBとは別途、別途黒インクを準備していますので、この限りではありません。
サンプル1のパラメータを示します。
サンプル1の結果です。左が元の画像、右が、ゾーンシステムモジュールをかけた画像です。
中間トーンが細かく見えるようになっていることがわかります。
サンプルに2では、モノクロームに変換する前のカラー画像に、ゾーンシステムをかけてみました。
サンプル2のパラメータを示します。
カラー画像のゾーンシステムを適用すると、自動的に、ホワイトバランスモジュールが処理されます。
これは、履歴を見ればわかります。
サンプル2の結果です。左が元の画像、右が、ゾーンシステムモジュールをかけた画像です。
ここでも中間トーンがよく見えるようになったと思われます。ただし、ホワイトバランスモジュールのためか、色も変化しています。
まとめ
ゾーンモジュールは、アンセル・アダムスのネガとポジのゾーンの対応を、RAWとJpegのゾーンの対応に置き換えたものです。このモジュールはゾーンで物事を考えることができる点に長所があります。
一方では、デジタルカメラでは、純粋なモノクロムデータはありません。これをLチャンネルに置き換えて扱う処理は、単純で理解しやすいですが、ダイナミックレンジとトーンレンジの最適化という意味では疑問も多く、フィルミックRGBを使うべきであるともいえましょう。