風景写真に明るいレンズは必要か(その1)~Sigma 16mm F1.4 DC DN

前書き

新しいレンズが出たときに、室内で、同じパネルやモデルを撮影して、解像度や収差を評価することが行われています。

しかし、これは、実際に撮影する条件とは異なります。一方、実際に撮影する条件で、カメラ、レンズ以外の条件を厳密にそろえることは難しいのです。ですので、実際の撮影条件で、室内のモデル撮影のように厳密な比較は困難です。

それでは、どうしたらよいのでしょうか。

実は、この問題は、統計学では、古典的な課題です。フィッシャーは農業試験場で、農薬や肥料の効き具合を調べていました。簡単な試験は、シャーレやポットで、比較する以外の要因をそろえた実験をすればできます。しかし、その効果が、実際の畑でも現れるか否かは別問題です。実際の畑では、日照、風、土の温度、水分、土に含まれる栄養分を完全にそろえた比較実験は不可能です。そこで、フィッシャーは、ランダム化試験(RCT)の手法を生み出します。これは、比較したい制御因子以外の因子がランダムに作用するように、実験計画を立てる手法です。

カメラの世界では、実は、RCTは全く行われていません。これは、医学の世界でいえば、エビデンスがないということになります。良いカメラと良いレンズ(高いカメラと高いレンズ?)を使えば、良い写真が撮れるということは、実際の撮影の場では、科学的に検証されていないのです。

それどころか、カメラやレンズの評価をしている人は、販売店であったり、カメラ業界の人であったり、することがほとんどです。倫理的言えば、利益相反の関係者が評価していることがほとんどです。

RCTを完全に行うのには、膨大な時間とお金がかかります。厳密に行うには、組み合わせの数を増やす必要があるからです。

ここでは、完全なはRCTはあきらめて、できるだけ、比較制御条件以外にバイアスがかからないように注意しながら、実際に近い条件で、簡単な比較を試みてみたいと思います。

また、RCTでは、サンプリングする母集団の設定が不可欠です。ここでも、想定する風景写真の撮影状況を明示します。晴れの日の日中で、順光を前提にしています。解像感を調べるために、ここでは、樹木を使っています。焦点は1点で、画像の中央に合わせます。

なお、風景写真のゴールデンタイムは、日の出と日没です。この間に光量は大きく変化します。光量が大きな場合には、ここで扱う日中の比較が使えると思いますが光量の少ない場合には、ここで示す比較は意味がありません。ご承知おきください。おそらくレンズよりもセンサーのサイズと感度が一番効くと思いますので、レンズ比較があまり意味をなさないとは思いますが。

明るいレンズは、暗いレンズに比べ、口径が大きくなり、高価になります。また、単焦点とズームを比べると、単焦点の方が、レンズの設計が容易で、画質がよいと一般的にはいわれています。

一方、風景写真の撮影では、ボケを期待することはなく、風景全体が、きれいに写っていることが好まれます。この条件は、理論的には、絞りを絞れば、絞るほど良いということになるのですが、実際には、aps-cサイズのセンサーのカメラでは、F8を超えて絞ると、回析の影響が出て、逆に、解像度が落ちるといわれています。

そこで、風景写真をaps-cで撮る場合の基本ルールは、絞り優先でF8で撮影ということになります。

回析が無視できるとして、F22まで絞れれば、ピンホールカメラに近くなり、レンズの差が出にくくなるだろうということは想像できます。F8では、レンズの影響は出ますが、開放時ほどの差はないはずです。

また、望遠ズームで暗い場合でも、F6くらいはあるので、F8とは、どのレンズでも、絞って使う条件でもあります。

この比較は、前回は、三脚を使って行っていますが、今回はより実際に近い、手持ちで比較してみました。

比較結果1

カメラはCanon EOS Kiss Mです。なお、darktableを使っている場合には、カメラ名が不明になると思います。(2019年12月1日現在) Canon EOS Kiss Mの欧米での販売機種名はCanon EOS M50なので、M50を選びましょう。レンズ補正では、機種名が必須になります。画像は、RAWを読み込んだそのままです。

レンズは、明るいレンズは、Sigma 16mm F1.4 DC DNです。暗いレンズとしては、FE-M 11-22mm F4-5.6です。画角は16mmに合わせ、F8にしてあります。ISOは自動なので、必ずしも一致しない条件です。

今回の比較は、明るい単焦点レンズ対暗いズームレンズということになります。

 

Sigma 16mm F1.4 DC DN、F8,16mm、ISO100,1/160sec

全景です。

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シグマ 全景


 等倍です。

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シグマ 等倍


FE-M 11-22mm F4-5.6、F8,16mm、ISO100,1/200sec

全景です。

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キャノン 全景

等倍です。

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キャノン 等倍


 F8に絞った場合には、差は、ほぼありません。

なお、ここでは、キットレンズFE-M 15-45mm F3.5-6.3 IS STMとの比較はしていませんが、前回の比較で、16mm,F8ではFE-M 11-22mm F4-5.6との差がなかったので、差は小さいと思われます。ただし、古い廃番になったレンズEF-M18-55mm F3.5-5.6 IS STM とFE-M 11-22mm F4-5.6を使った印象は、後者がよかったです。古いキットレンズは同等ではないと思います。

 

結論は、kiss Mを使っての比較ではF8で風景写真を撮る場合には、明るいレンズのメリットは、見られないということです。